今日は重い話しが嫌いな人は読まないでください。
それでも読んで、暗い気分になっても責任取りません。
それから、今日はコメントへのお返事はお返ししません。
あしからず・・ご容赦のほどを。
花冷えつづく今日この頃、近くの公園にはちらほらと・・
母の好きだった桜の花色・・今日も今日とて花逍遥。
母はボクの手を引いて暮れ泥む街の雑踏の中を歩いていた。
幼稚園の帰り、寄り道は楽しかった。
お腹がすいていたけれど「お腹がすいた」と言わなかった。
ボクはおとなしいこどもだったし、あまり喋らないこどもだった。
それは、体の痣をできるだけ増やさないようにするためだった。
歩き疲れ、母と二人で公園のベンチに座って、チョコレートを食べた。
母は街灯の光で膨張した満開の染井吉野をずっと観ていた。
ボクは小さな声で「もうひとつ食べもていい?」と母に言った。
でも、返事は返って来なかった。
ボクはチョコレートの箱を幼稚園の制服のポケットに入れた。
ボクは母の手をぎゅっと握った。母は握り返して来なかった。
桜の花の色がうつった母の表情は、力無く茫然として、怖かった。
ボクは「もう帰ろうよ」と、言えなかった。
言ったら帰られなくなると思った。
だからボクは黙って母の手を引っぱった。
ボクはツッカケ履きを引きずりながら歩く母の手を引いて家に帰った。
玄関でズック靴を脱ぎながら「おかえりなさい」と言うと、
母は堰を切ったように泣きだした。ボクはそれを見て泣いた。
母はボクを強く抱きしめて「ごめんね」と言った。
二人とも体が冷えていた・・
母はボクを着替えさせた・・母はボクの幼稚園の制服のポケットの中に
握りつぶしたチョコレートの箱を見つけた。
母はクシャクシャに潰れたチョコレートの箱を胸に押しあてて震えていた。
それから何年も経ったある日・・
母は自分で自分の心を完全に閉じてしまった。
染井吉野が満開になって・・そして花が散って葉桜になったころ・・
母は自ら持った不穏な願望を・・自ら果たしてしまった。
いつかそうなる事を、ボクは知らなかったとは言えないのだ。
母が逝って、間もなく10年が経つが、未だ受け入れられないままだ。
もうすぐ染井吉野が満開になる・・そして散るのだ。
これからも、毎年まいとし・・咲いては散るを繰り返すのだ。
受け入れられない事自体は、それはそれでいいと思っている。
肉親の死など容易に受け入れられるものではない。
でも・・あの日ボクは「もう帰ろうよ」と言うべきだったのだろうか・・
なにか、ひとつ、違っていたら・・と、思う今日・・
神戸に染井吉野の開花の便りが届いた。
今年も綺麗に咲くといいね・・